八王子ゾンビーズ感想 本当のゾンビ

八王子ゾンビーズ観劇しました!

 

私は終わりの3日間の観劇だったので、事前に見に行った方の感想なども色々聞いておりました。ゾンビーズたちのアドリブが面白い、タンバリン意外と楽しい!などポジティブな意見もあれば、時事ネタがひどい、海(マリン)の扱いが見ていて不快などのネガティブ意見も聞いていました。

 

私個人としての感想はいい舞台見れたなぁ!といった印象です。推しゾンビも(超超超超!!)可愛かったのはもちろんですが、色々考えるところがありました。

 

八王子ゾンビーズという作品自体の1番のテーマは、【過去を振り返らずに前を向いて行きましょう】というもので、ありきたりと言えばありきたりですが、主人公・羽吹の生き様、それを演じる主演・山下健二郎さんの表情やダンスでこのメッセージが嫌味なくストレートに伝わってきてぐっときました。

 

しかし、これとは別にもう1つテーマがありました。それは孔明住職の「人を殺した人間がのうのうとこの世に生きていていいのか?」というものです。

 

以下、この2つのテーマを念頭に置いて、

それぞれのキャラクターに着目して私が考えたことを書いて行きたいと思います。

 

【主人公・羽吹】

ダンサーの夢破れて新しい自分を探すために希望寺にやってきた羽吹。

物語前半の羽吹はゾンビーズたちにダンスを教えるシーンなどでは一人で気持ちよくなったりするものの…最終的には自分のためではなくゾンビーズたちのために踊ります。山下さんの顔芸めちゃくちゃ面白かったし、ダンスもよかった〜〜〜人間あんなにしなやかに身体動くんだな・・・・・・と毎回感動していました。ダンスについて全然詳しくないのでクラブステップとかサイドウォークとか超基本の動きなんかも勉強になりました。

羽吹のダンスそのものがゾンビーズを救ったというより、羽吹が10年以上続けたダンスが意外な形で誰かを救うことになるという描かれ方がよかったです。

 

【八王子ゾンビーズたち】

生前はリーダー仁さんを筆頭にしたチーマー集団で、昔は悪事も行っていましたが、死ぬ間際の頃には社会のはみ出しものたちを集めて家族として一緒に暮らしたり、仕事を斡旋したりなどして生活していました。誤解を受け全員殺されてしまった後は葬式などあげてもらえず、腐った肉体に魂が宿った状態で満月の夜にお墓の下から這い出てきます。そして踊ります。そして斬られます・・・・。泣

ゾンビーズのワイワイがやがやしたノリや、茶番、しょーもない下ネタなんかで毎回大爆笑していました。ゾンビひとりずつ深堀りこそされませんでしたが、それぞれちゃんとキャラ立ちしていてよかったな〜と思います。メイクや衣装なんかも細かいとこまで作り込んであって好きでした。キービジュアルも可愛いよね!絵の具ベチャってやつ!(語彙力)

 

孔明住職と希望寺の人たち】

孔明住職は間接的にとは言えゾンビーズに関わったことで、親を殺された憎しみからゾンビーズたちに永遠に成仏できない苦しみを与え続けています。

孔明「人を殺して、その家族まで苦しめている人間をのうのうと生かしておいていいのか?」と問います。

私はこの孔明の考えにイエスともノーとも言えないなぁと思ってしまいました。倫理的にはノーです。でも実際のところはどうかなぁと…本当に誰かによって親が殺されたら相手のことを憎んで永遠に苦しめばいいのに。

きっとそう考える自分の一面もあるのではないかと思いました。

 

希望寺の一刃 

彼は満月の夜にゾンビーズを斬りつける希望寺の用心棒的な立場でした。

彼の生きがいはただ一つ「希望を断ち切ること(絶望する顔を見たい?)」

一刀も狂ってはいましたが彼の生き様というか教義には一本の筋が通っており、魅力的なキャラクターとして映っていました。あと本当に殺陣が美し過ぎる・・・・・・・・・・一刀の殺陣シーンでは推しそっちのけ状態。

 

同じく希望寺の下田

彼は希望寺に身を置いてはいるものの、孔明住職のことは信用していないようだし、羽吹に対しても面倒見なきゃいけなくて面倒臭いなぁといった態度で、よく言えば中立、悪い言い方をすれば自分が無い。そんなキャラクターに見えました。ゾンビーズたちのことも羽吹の後をつけるまで知らなかったようですし、なぜ希望寺にいるの・・・・・・。

最後の戦いで「やっぱり羽吹を応援したい!」

という彼自身の意思が見えたのは嬉しかったです。

 

【羽吹と八王子ゾンビーズ孔明住職、本当のゾンビ】

この物語では主人公が羽吹、その敵役として孔明住職が描かれています。

しかし羽吹も孔明住職もお互いに相手の思想を決して「お前は間違っている」と否定しなかったのが非常に印象的でした。

物語の中でお互いに自分が正しいと思う方へただひたすら行動していくのみでした。お互い違う思想を持った別の人間として描かれており、ただの別個体であり対立するのものとしては描かれていなかった。

 

ラストシーンで孔明住職は「自分がしたことは間違っていると思わない、変えないし、変わらない。」と言います。

この「変えないし、変わらない」というセリフが妙に印象的でした。考えを変えないと改めて自分に言い聞かせ、決心したように感じられました。

 

羽吹は人生に迷っていますが、迷うたびに自分で考えて進んで行きます。楓を薬漬けにしたのはゾンビーズではないか?という疑惑が出た時に羽吹は「ゾンビーズがそんなことをするわけない!」と盲信するのではなく「(信じたいから)証拠を出してくれ!」と言います。羽吹は何か困難があるときにでも常に思考を止めず、足を止めない男として描かれていました。

 

ゾンビーズたちは物語の当初からずっと「成仏したい!」と願っています。

斬られ続けるのが苦しいから?それもあったかもしれませんが成仏したら先に進めるから成仏したかったのではないか。

ゾンビーズは何者かによって自分たちが殺されているのを理解していましたが、そのことを振り返って恨むのではなく、ただ先にある成仏に向けてダンスを頑張っていました。

 

しかし孔明住職はどうなんだろう…?と思います。親を殺された悲しみは想像を絶するものだと思います。その苦しみの果てに辿り着いたのが「人を殺した奴がのうのうと生きていていいわけがない。永遠に苦しみ続ければいい。」

という考えでした。きっとこの考えにたどり着く人は孔明住職以外にもきっとたくさんいると思う。しかし、孔明住職はこの考えに至った後、そこからどうするか・どう生きるか考える事を放棄したように見えます。殺人者を恨み続けるという行為は全部相手のせいにできる最も楽で、苦しい自分を救うことができる唯一の方法だったから。

 

しかし、自らの思想に囚われて先に進むことができない、殺人者を恨んだときの気持ちから時が止まってしまっている孔明住職こそが本当のゾンビなんじゃないの?と思ってしまいました。

 

羽吹とゾンビーズ

肉体は死んでいるが(羽吹は生きた人間ですが、ダンサーとしての羽吹は希望寺にきた時点で一度死んでいる)、しかし常に先を見ている。希望を捨てない。

 

孔明住職→

肉体は生きているが、思想がアップデートされず先に進めず死んだままの状態。

 

結局この舞台では1度も「人を殺したからってその人を殺したり、苦しめちゃいけないんだよ!」とは名言されていません。

舞台のラストで孔明住職は人を殺した人間を同じ様に殺して苦しめていいという自分の思想を改めて宣言します。

それに対して羽吹はもう少し自分の人生をもがいて生きてみる、と言います。お互いの思いを述べるのみでどちらが正しいと明言されなかった。お前はどう思う?本当に成仏できないゾンビとはなんだと思う?

       そう問われている気がしました。